旧陸海軍航空材料規格概要


 日本の航空機工業開始は主に軍用機によるものだった為、使用材料が軍規格として制定された。
この航空機用材料規格が制定されたのは1935年頃とされ、

ご多分に漏れず陸海軍がそれぞれ別個に規格を持った。

 これらの規格は後に統合され、臨時日本標準規格、通称臨JESに一部取り入れられる事となる。
此の頁では資料のある範囲出来る限り表記をする。資料抜けも在るのでその点はご容赦頂きたい。

 

※1 順番については出来るだけ識別記号順としている

※2 ~鋼~種と資料に記載があるものは戦時中使用された規格であるかは不明であるが、

類似鋼種の欄に「イ」番号台の物が記載されているので、そのまま記載することとする。


略號「イ」系統 (棒鋼鋼片及鍛鋼品用鋼材?)

・炭素鋼
 中間鋼(後述)のP、Sを減らしたものとの記載がある。現在の機械構造用炭素鋼の様な物だろうか。
よく見れば45炭素鋼(イ004)等はS45Cあたりに成分が似ている。

種別 略號 C Si Mn P S
00炭素鋼 イ000 0.10 以下 0.35 以下 0.60 以下 0.035 以下 0.035 以下
15炭素鋼 イ001 0.10~0.20 0.35 以下 0.60 以下 0.035 以下 0.035 以下
25炭素鋼 甲 イ002甲 0.20~0.30 0.35 以下 0.60 以下 0.035 以下 0.035 以下
25炭素鋼 乙 イ002乙 0.25~0.35 0.35 以下 0.60 以下 0.035 以下 0.035 以下
35炭素鋼 イ003 0.30~0.40 0.35 以下 0.60 以下 0.035 以下 0.035 以下
45炭素鋼 イ004 0.40~0.50 0.35 以下 0.60 以下 0.035 以下 0.035 以下
55炭素鋼 イ005 0.50~0.60 0.35 以下 0.60 以下 0.035 以下 0.035 以下
種別 焼鈍 焼準し 焼入 焼戻
00炭素鋼 900~950 空冷
15炭素鋼 850~920 空冷
25炭素鋼 甲 約840 炉冷 840~900 空冷
25炭素鋼 乙 830~890 空冷
35炭素鋼 約830 炉冷 830~880 空冷 830~880 水冷(油冷) 550~650
45炭素鋼 約820 炉冷 820~870 空冷 820~870 水冷(油冷) 550~620
55炭素鋼 約800 炉冷 800~850 空冷 800~850 水冷(油冷) 550~620
種別 降伏点(㎏/㎟) 引張強さ(kg/㎟) 伸び (%) 絞り (%) 衝撃値(kgm/㎠) 硬さ
00炭素鋼 38 以上 30 以上 109 以下
15炭素鋼 38 以上 30 以上 50 以上 109~152
25炭素鋼 甲 28 以上 45 以上 28 以上 50 以上 9 以上 111~163
25炭素鋼 乙 29 以上 47 以上 26 以上 47 以上 7 以上 116~167
35炭素鋼 40 以上 55 以上 22 以上 57 以上 10 以上 170~235
45炭素鋼 50 以上 70 以上 17 以上 45 以上 8 以上 201~255
55炭素鋼 60 以上 80 以上 14 以上 35 以上 6 以上 229~285

・炭素鋼磨棒

 軟鋼の引き抜き製品であり、引張強さにより五種類に分けられる。

基本熱処理せず、そのまま製品にまで出来るものでナット等をミーリング加工せずに作る事が出来る。

種別 略號 C Si Mn P S
炭素鋼磨棒(1) イ011 0.20~0.30 0.35 以下 0.90 以下 0.035 以下 0.035 以下
炭素鋼磨棒(2) イ012 甲乙丙 0.25~0.35 0.80 以下 0.045 以下 0.045 以下
種別 焼入 焼戻 引張強さ
(kg/㎟)
伸び (%) 絞り (%) 衝撃値
(kgm/㎠)
硬さ
炭素鋼磨棒(1)
径叉は対辺距離8mm未満
55~70 13 以上 35 以上
炭素鋼磨棒(1)
径叉は対辺距離8mm以上
55~70 15 以上 40 以上
炭素鋼磨棒(2) 甲 55 以上 12 以上 35 以上 3 以上 170~235
炭素鋼磨棒(2) 乙 約850
水冷(油冷)
600~700 75 以上 15 以上 50 以上 10 以上 201~262
炭素鋼磨棒(2) 丙 約850
水冷(油冷)
600~700 85 以上 13 以上 40 以上 8 以上 217~277

・肌焼鋼

 「肌焼」と呼ばれる表面硬化処理を施した鋼材(若しくは其の為の鋼材。どちらかは不明)
現在では窒化処理による硬化も指す事があるらしいが窒化鋼は明確に分けられているため、
今回は含めない物だと思われる。

種別 略號 C Si Mn P S Ni Cr W Mo
肌焼高ニッケル鋼 イ103 0.10~0.15 0.35
以下
0.60
以下
0.030
以下
0.030
以下
4.00~
5.00
0.50
以下
肌焼高ニッケル
クローム鋼
イ105 0.10~0.15 0.35
以下
0.60
以下
0.030
以下
0.030
以下
4.00~
5.00
0.70~
1.00
0.50
以下
肌焼クローム
ニッケルモリブデン鋼
イ108 0.14~0.20 0.40
以下
0.60
以下
0.030
以下
0.030
以下
1.80~
2.30
1.80~
2.30
0.20~
0.40
肌焼クローム
タングステン鋼
イ137 0.17~0.23 0.35
以下
0.70
以下
0.030
以下
0.030
以下
1.00~
1.50
0.40~
0.80
肌焼クロームニッケル
タングステン鋼
イ138 0.14~0.20 0.40
以下
0.60
以下
0.030
以下
0.030
以下
1.80~
2.30
1.80~
2.30
0.40~
0.80
種別 焼鈍 焼準し 第一次焼入 第二次焼入 焼戻
肌焼高ニッケル鋼 約830 炉冷 830~880 油冷 750~820 油冷 100~200
肌焼高ニッケル
クローム鋼
約830 炉冷 830~880 油冷 750~820 油冷 100~200
肌焼クロームニッケル
モリブデン鋼
約850 炉冷 850~920 850~920 油冷(空冷) 780~850 油冷 100~200
肌焼クローム
タングステン鋼
約700 空冷 850~920 850~920 水冷(油冷) 800~870 水冷(油冷) 100~200
肌焼クロームニッケル
タングステン鋼
約700 空冷 850~920 850~920 油冷(空冷) 780~850 油冷 100~200
種別 降伏点(kg/㎟) 引張強さ(kg/㎟) 伸び (%) 絞り (%) 衝撃値(kgm/㎠)
肌焼高ニッケル鋼 70 以上 100 以上 15 以上 40 以上 8 以上
肌焼高ニッケル
クローム鋼
90 以上 110 以上 12 以上 40 以上 7 以上
肌焼クロームニッケル
モリブデン鋼
90 以上 110 以上 12 以上 40 以上 7 以上
肌焼クローム
タングステン鋼
80 以上 100 以上 15 以上 40 以上 6 以上
肌焼クロームニッケル
タングステン鋼
90 以上 110 以上 12 以上 40 以上 7 以上
種別 類似鋼種 C Si Mn P S Ni Cr Mo
肌焼鋼 一種 イ101
SH50
0.18
以下
0.15~0.35 0.60
以下
0.030
以下
0.030
以下
肌焼鋼 二種 イ102
SH80
0.18
以下
0.15~0.35 0.60
以下
0.030
以下
0.030
以下
2.00~3.00 0.30
以下
肌焼鋼 三種 イ104
SH95
0.18
以下
0.15~0.35 0.60
以下
0.030
以下
0.030
以下
3.00~4.00 0.50~1.00
肌焼鋼 四種 イ106 0.12~0.18 0.15~0.35 0.50~0.80 0.030
以下
0.030
以下
0.50~1.00
肌焼鋼 五種 イ107 0.12~0.18 0.15~0.35 0.50~0.80 0.030
以下
0.030
以下
1.00~1.30 0.15~0.35
種別 第一次焼入 第二次焼入 焼戻
肌焼鋼 一種 920 水冷(油冷) 750~800 水冷 150~200 空冷
肌焼鋼 二種 850~900 水冷(油冷) 750~800 水冷 150~200 空冷
肌焼鋼 三種 830~880 油冷 750~800 油冷 150~200 空冷
肌焼鋼 四種 830~900 油冷 800~850 油冷(水冷) 150~200 空冷
肌焼鋼 五種 820~900 油冷 800~850 油冷(水冷) 150~200 空冷
種別 降伏点(kg/㎟) 引張強さ(kg/㎟) 伸び (%) 絞り (%) 衝撃値(kgm/㎠)
肌焼鋼 一種 30 以上 50 以上 20 以上 50 以上 12 以上
肌焼鋼 二種 55 以上 80 以上 17 以上 45 以上 9 以上
肌焼鋼 三種 75 以上 95 以上 15 以上 45 以上 8 以上
肌焼鋼 四種 45 以上 70 以上 12 以上 40 以上 6 以上
肌焼鋼 五種 75 以上 85 以上 15 以上 40 以上 5 以上

 

※肌焼クローム鋼に「イ147」なる鋼材が在るらしいが、成分等詳細不明である。

「イ137S」とも言うらしい。何が何だか。

叉同様に肌焼クロームニッケル鋼で「イ148」も存在するらしいが、

こちらも詳細不明である。此方も別称があり「イ138S」とも言う。

略號末尾に付く謎のSだが、一応その元素に対しての基準を緩くした、

乃至は多く添加したのでは無いかと思われる。

・窒化鋼

 窒素を鋼材表面に浸み込ませる窒化処理を行い、浸炭よりも更に硬い表面層を得た鋼である。