各国の船舶装甲板


日本


黎明期甲板・全期構造材


・複合装甲

 甲鈑の後ろに木材等を張り付けたものである。表面硬化装甲の靭性範囲を

木で作った物ともいえる。

「富士」「八島」等以前の艦に採用?(調査中)

 なお、現代戦車の複合装甲と間違えないように注意。

(英文資料ではどちらもComposite Armorなので)

・Ni鋼甲鈑

 仏で1886年頃開発。錬鉄のように強靭であることが特徴。

 Ni含有率は3.25%。「富士」等に一部採用

・H.N.S(Harveyized Nickel-Steel )

 平賀 譲デジタルアーカイブ等に記載のあるNickel鋼。

HNSとしか書いていないが恐らくHarveyized Nickel-Steel であると思われる。

上記のNi甲鈑と同じものである可能性もある。


表面硬化甲板


・HV鋼

「ハーベー甲板」とも。炭素鋼、あるいは前出のNi鋼の表面に浸炭焼入を施し

表面硬化装甲として、強度を高めることなく砲弾破砕力を上げたものである。

米国人ハーベーにより開発。

・KC甲板(Krupp Cemented Armor

 独クルップ社がハーベー甲板の特許を購入し、自社開発のNi-Cr鋼甲板

(C 0.3~0.4, Ni 3~4, Cr 1.75~2.0 %)を地金に使うことで強度、靭性の

改善を図った物である。

 なお、表層の焼入れ硬化の際、裏面の脆化が問題となったが高温に予熱した

炉に挿入して表面より加熱し、裏面の昇熱を耐熱剤や砂、煉瓦等で囲んで

妨げる方法を生み出し解決し、クルップ社は製品化したものである。

・VC甲板(Vickers Cemented Armor

 ビッカース社が独クルップ社からKC鋼の特許を購入し、改良したもの。

具体的には成分の C、Ni、Cr を増やし、浸炭剤を木炭と骨灰に変更したうえ

KCより低温で長時間浸炭するようにしたものである。

 日本では巡洋戦艦「金剛」をビッカース社に注文した折に同社より技術

導入した。

・VH甲板(Vickers Hardened Non-Cemented Armor ) 

 昭和12年(1937)年に6万9000t Classの新主力艦建造を計画した際に

舷側甲板は410mm、砲盾前板は560mmという計画が出された。

 このような超厚甲板を製造するには膨大な設備,時間,燃料が必要であり、

板厚が増大しても単位厚さの対弾力低下は避けたかった。

また、敵弾の破砕には十分に厚い硬化層と遠距離からの高撃角射撃に

耐えうる高い靭性の裏面が必要となったため、大口径彈に無力であり割れの原因

にもなる(熱処理時の割れ、ノッチ割れの二つの意)Cr硬化層、即ち浸炭処理を

省き焼入れで表面層を硬化するとともに超厚板の内部組織改善のため、世界最大の

1万5000tプレスを輸入して圧延前鍛錬を行うようにしたものである。

 なおこの甲鈑に限った話ではないだろうが、Ni-Cr甲鈑の製造時には脆性の現れる所が

多分にあり、熱処理には細心の注意を払う必要があった(現在で言う焼き戻し脆性?)

この脆性の事を製鋼関係者ではクルップ病(krupp krankheit )と呼んでいた。

 この甲板は「大和」建造の折に使われた。


均質圧延甲板


・VNC(Vickers Non-Cemented Armor )

 ビッカース社の均質甲板。日本海軍ではNVNC以前に使われていたもの

NVNC登場後取って代わられた。成分比は C 0.4, Ni 5, Cr 2,%

・NVNC(NewVickers Non-Cemented Armor )

  大正十四年(1925)に横田 栄吉技師がNi節約と鋼材運用の点からVC甲板

の成分で試製して射撃したところ成績が良かったので新しいVNCの意で

NVNCとして制式採用された。(おそらく、VCの鋼材が余っていたので圧延

して試験を行ったら成績が良かった、という事であろうと思われる。)

・MNC(Molybdenum Non-Cemented Armor )

 NVNC以前、大正二年に試験を行ったシュナイダー社製 0.6%Mo入り

6,8,9in甲は組織組成も射撃試験結果も良好で、翌三年には呉でも

9in Mo入り甲板(C 0.4、Ni 3.6、Cr 0.8、Mo 0.4 %)を試作した結果、

成績が良く更に翌年にもMoを 0.6%に高めCとCrを低めた甲板で好成績を得た。

 しかしNVNCの登場によりいったんは中断。その後、大撃角、遠距離砲弾や

爆弾等の防御が問題になると、これらは撃角が大きく弾丸の肩部で鈑面を

叩く事から鈑面を変形させることも考慮に入れた「受け止める」甲板で

彈を滑り去らせる方が有利ではないかと考えた。

 そして「大和」Class計画の際Mo入り均質甲鈑を研究、従来の試験鈑に比べ

Cを低めCrを高めた甲鈑の成績が優秀だったので昭和十五年(1940)に採用

したものである。

・CNC(Copper Non-Cemented Armor )

 大口径彈衝突時の変形を減らし、Niを節約する目的で作られた。昭和六年試作。

射撃試験の結果 35,44,61.100 mmまではNVNCと同等だが215mmは靭性に劣る

事が分かったため昭和七年より75mm厚以下に採用された。

 派生型に第二次大戦直前に貴重資源をスクラップで節約する目的で「CNC₁」と

「CNC₂」が開発され、昭和十六年に薄板用に採用された。

「CNC₁」と「CNC₂」の違いはNi含有度である。1は 1.8~2.8 %、2は 1.3~1.8%)


船体・船殻構造材


・リムド鋼/セミキルド鋼

正確には鉄板そのものの名称では無く、製法の違う鉄インゴットの名称である。

成分組成などは不明。

「三笠」など

・H.T.(High.Tensile.Steel?)

恐らく高張力鋼(ハイテン)の事

・H.H.T(High.High.Tensile.Steel?)

上記の引っ張り強度改良版?

・DS(Ducol.Steel)

1921年に英国海軍とコルウィル社【Colville】が開発した当時としては画期的な軍艦用構造鋼材。

命名は英国海軍"D"又は"D.1"規格Colville社製鋼でD+Col=DuCol。

低炭素マンガン鋼である。

猶古い書物で「デー鋼」と記載のあるものは、建築材用の普及品低マンガン鋼である

可能性がある(艦船系書物ではほゞ無いが)。低マンガン鋼の通称として使われていた様な

記述を見かけた事があるので注意が必要かもしれない。

・St-52(Stahl-52 )

上記のデュコール鋼は船舶構造材としては画期的なものだったが、

溶接性が悪い欠点を抱えていた。

だが1943年独逸人技師(H.Schumidt)がU-boatで、溶接可能なSi-Mn系の鋼材の情報をもたらした。

これがSt-52である。(加筆中)


米国

米国の装甲板は名前が同じでも、年代によって性能が違うので注意が必要。

又、その為利便上WW1などを付けて表現する。


表面硬化甲板


・CKC(Carnegie Krupp Cemented Armor

・WW1-Era Class "A" Armor

  米国最初のClass"A"Armor。カーネギー・スチール・コーポレーション、

ベツレヘム・スチール・コーポレーション、ミッドベールカンパニーの三社で

製造された(主な製造は前二社)

 だが、試験を行ったところ裏面のスポール破壊

(衝撃によって板裏面が剥がれるように破壊され飛び散る。)

が発生したほかに脆く、すぐに破壊されてしまった為1910年に廃止された。

主にUSSサウスカロライナ、デラウェア、ノースダコタ、フロリダ、ユタ、

アーカンソーの一部に使用された。